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マンガの描き方の理論として「マンガ記号論」というのがあります。記号論は、マンガが上手くなるために重要ですし、そもそも「マンガって何なの?」という根本に関わる重要な理論だと思います。
この記事では、マンガ記号論って何なのか?描くときに、それをどう意識したらいいのか?役に立つのか?といった点をまとめます。
手塚治虫が提唱した理論
「マンガ記号論」は、手塚治虫が提唱した理論だといわれていて、根拠として引用されるのが、手塚治虫がインタビューで語った、以下の言葉です。
僕ね、最近ふと思いついたんだけれど、どうも僕自身あまり画を描こうとしてるんじゃないと思うの。(中略)じゃあ何かって言うとね、象形文字みたいなものじゃないかと思う。
僕の画っていうのは、驚くと目がまるくなるし、怒ると必ずヒゲオヤジみたいに目のところにシワが寄るし、顔がとびだすし。(笑)そう、パターンがあるのね。つまり、ひとつの記号なんだと思う。
で、このパターンとこのパターンとこのパターンを組み合わせると、ひとつのまとまった画らしきものができる。
(中略)
僕にとってのまんがというのは表現手段の符牒にしかすぎなくて、実際には僕は画を描いているんじゃなくて、ある特殊な文字で話を書いているじゃないかという気がする。
出典:手塚治虫インタビュー『珈琲と紅茶で深夜まで…』
このインタビューの載った雑誌は入手できませんでしたが、大塚英志著「アトムの命題―手塚治虫と戦後まんがの主題」に、この言葉が載っていました。
アトムの命題―手塚治虫と戦後まんがの主題 (アニメージュ叢書)
この本は、手塚治虫研究の権威である夏目房之介氏の解説等もふまえつつ、じっくりと「手塚治虫にとってのマンガ記号論とは何なのか?」を説明しているものです。
特に面白いのが、「記号的なマンガというのは、デフォルメしたタッチのマンガのことではない」という話が説明されているところです。ぜひ一読をおすすめします。
手塚治虫の発言を分析してみる
以下、手塚氏の言葉をじっくり分析したいと思います。
「象形文字みたいなもの」
画を描こうとしているのではなく、「象形文字みたいなもの」だと説明していますが、どういうことでしょうか。
ここでいう「画」というのは、話の流れ的に、写実的な絵画のことでしょう。
例えば、「おどろいた表情」を表現したい場合に、写実的に描くとしたら人間が驚いたときの顔の表情を、そのままリアルに描くことになります。
でも、手塚治虫のマンガはそうではなく、「象形文字みたいなもの」だと言っています。
「文字」ということなので、漢字に例えてみましょう。「馬」という文字は、リアルな馬の形をしていませんが、「馬」という意味が伝わります。
同じように、手塚治虫の漫画も、「おどろいた」ことを表現するために、リアルな「おどろいた顔」を描いて表現するのではなく、「おどろいている」という意味が伝わる「文字」のようなものを書いて表現しているということですね。
パターンがある
表情にパターンがあることを言っていますが、キャラクターの顔にもパターンがあることを、以下のように説明しています。有名なスターシステムの話とは少し違います。
僕の作品にはいろんなキャラがでてくるようだけど、あれはみんなパターン化しちゃってるんですよ。
(中略)
美人とか美男子なんてみんな同じ顔になってしまう。ただ髪だけが違ってね。その髪型もよく見れば別のキャラからとってきたものだったり。
だから、キャラクターっていうのは僕にとって単語なんですね。
出典:手塚治虫インタビュー『珈琲と紅茶で深夜まで…』
最後に登場した「単語」という説明が、記号論のカギだと思います。手塚治虫にとって、マンガは「単語」の集まりである「言語」のようなものなんですね。
色々なパターンという「文字」を組み合わせると、キャラクターという、一つの単語ができあがるというわけです。
他にもいろいろなマンガ的な「単語」がある。マンガとは、それらの「単語」を一定の文法のもとに並べて、意味が伝わるようにした一種の「言語」のようなものというわけです。
ある特殊な文字で話を書いている
「ある特殊な文字で話を書いているんじゃないかという気がする」と言っていますが、「特殊な文字」というのは、前述の、表情のパターンとか、キャラデザのパターンなどですね。
あるいは、汗マークとか、スピード線など、マンガならではの記号も「特殊な文字」のうちに含まれるでしょう。
他にも「フキダシ」「コマ」「オノマトペ」なども、みんなひっくるめて「特殊な文字」と言っていると思います。
そういう「特殊な文字」を組み合わせると、キャラクター、その表情や心情、アクションなどの意味を持った「単語」ができる。
そういう「単語を」、マンガの文法にのっとって並べることで、「お話」が伝わるようにしたもの…それがマンガだというわけです。
記号論まとめ
つまり、「マンガ記号論」を一言でいうなら…
マンガは、意味を持った記号が集まってできた、一種の言語のようなものである。
…ということだと思います。
記号論をふまえてマンガを描いたほうがいい?
「マンガ記号論」は、あくまで、「手塚治虫にとってのマンガは記号だった」ということなので、マンガはすべてそうなんだ!と言いたいわけではないと思います。
とはいえ、どんなリアル系マンガにも、最低でもコマとかフキダシぐらいはあるでしょう。
それらがある時点で「記号」を使っていますから、すべてのマンガに、記号論があてはまると言ってもいいと思います。
記号論を意識しなくてもマンガは描けます。でも、記号論を意識して描くと、マンガが上手くなる。
例えば、どんなに絵が上手くて、リアルな絵を描けるとしても、マンガ的な記号的な表情を描いたほうが、キャラの感情が伝わってくる…なんてこともよくあります。
記号論を意識すると、マンガで何かを表現する力が格段に向上すると思います。
記号論をふまえてマンガを描くには?
マンガ的な記号表現は、マンガファンの間で自然に浸透しちゃっています。意識しなくても、自然に使っちゃうものです。
意識して使うようにするには、やはり、どんな記号が、どんな意味で使われるのかを勉強することでしょうね。
つまり、「いろいろな記号を集めてくること」。あとは、「記号をうまく並べる方法を学ぶこと」だと思います。
記号を集めてくる
勉強といっても、マンガを読みまくるだけですが…
「こんな表情の描き方もありなんだ~」とか「こんなマークをつけるだけで、驚いてるっぽくなるんだな~」とか「こんなフキダシの描き方かっこいいな~」とか、
使えそうな「記号」を集めてくるだけで、かなり勉強になります。
キャラデザについては特にそうですね。髪の毛の描き方、目の描き方、体の描き方…
今ではマンガ・アニメ業界共通のパターンが流通していて、いくらでも流用できますから、どんどん活用しちゃえばいいのです。
記号をうまく並べる
あとはうまく記号をならべるわけです。つまりネームを切る。
「右から左、上から下の順に読む」というルールに従って、コマや吹き出し、キャラ等のマンガ記号を配置するわけです。
文法に従って単語を配置して、小説家が物語を作っていくことと似ていますね。
上達するには、上手いマンガ家の作品を分析することですよね。まずは、記号論の提唱者である手塚治虫の作品に学ぶのが一番だと思います。
まとめ
記号論とは
マンガは、意味を持った記号が集まってできた、一種の言語のようなものである。
ということでした。そしてこの理論を使うと、マンガの表現力が格段にUPする。記号論を踏まえてマンガを描くには、
- 色々な記号を集めてくる
- 記号をうまく並べる技術を磨く
ということでした。