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マンガのネームを切るための基本のひとつとして、よく言われる「視線誘導」というものがあります。この記事ではその「視線誘導」とは何かを、権威である夏目先生の著書などを参考にしつつ、シンプルにまとめてみました。
視線誘導とは
「視線誘導」とは、読者の視線のルートを設計することです。
この吹き出しを読んだら、次はこのキャラの表情を見て、その次はこの吹き出し…という「作者の意図する順番」で、読者が視線を移動してくれるように設計するわけです。
視線誘導の目的
読みやすさ
視線誘導がゴチャゴチャしていて、次にどこを読んだらいいのか、読者が迷うようなマンガは読みずらいですね。
視線誘導がスムーズなら、とても読みやすいマンガになります。
演出効果
とはいえ、「読みづらいけど面白い」という場合もあります。視線誘導がスムーズでないことが、逆に面白さを生むわけです。
視線誘導は、必ずしもスムーズでなければならないというわけではないんですね。
視線誘導を考えることで、色々な演出効果を生むことができるわけです。
視線を誘導する要素
読者はマンガのどこを見るのか?つまり、視線を誘導する要素は何か?
それは主に以下の3つだと言われています。
要素1:キャラクター
まず、読者が見るのはキャラクターの顔です。キャラクターの表情などから情報を読み取ろうとするわけです。
視線誘導論の提唱者である夏目房之介先生は、以下のように述べています。
マンガを読むとき、通常読者は人物の顔に視線を引き寄せられる。そこでマンガ家は半分意識的に、もう半分は無意識に、引き寄せた視線をどう運動させるかに心をくだく。
出典:夏目房之介『コマの基本原理を読み解く』―別冊宝島EX『マンガの読み方』より
要素2:吹き出し
読者はキャラクターを見た後、そこから吹き出しが伸びていれば、そっちに視線を移動して、吹き出しの内容を読みます。
人によっては、画はほとんど見ずに吹き出しだけに視線を移して、台詞しか読まない人もいるでしょう。吹き出しはかなり重要な要素ですね。
要素3:描き文字
マンガは吹き出し以外にも文字があります。いわゆる「描き文字」と呼ばれる、擬音などの文字です。
他にも、吹き出しで囲んでいない文字や背景の文字なども含め、読者は文字に注目します。
視線誘導のハウツー本で有名な菅野博之氏は、以下のように述べています。
フキダシや描き文字などのコマを構成する要素全部が、視点を誘導していく…(後略)。
出典:菅野博之『漫画のスキマ―マンガのツボがここにある!』
漫画のスキマ―マンガのツボがここにある! (Comickersテクニックブック)
基本は右から左,上から下
視線誘導の基本は、上記の「視線を誘導する要素」を、「マンガを読む順番のルール」に従って配置することです。
マンガのコマを読む順番は、誰もが知っているとおり「右から左」「上から下」ですね。このルールは、1つのコマの中でも同じです。
1つのコマの中に、複数の吹き出しがあれば、「右から左」「上から下」の順で読みます。吹き出しだけでなく、画も、「右から左」「上から下」の順に見ていきます。
読者の視線は基本的にこのルールに従って移動します。(絶対的なルールではない)
そのことを踏まえてネームを切って、キャラや吹き出しを配置していく!これが視線誘導の基本ですね。
視線誘導の限界
実は、視線誘導論は元々、マンガの「描き方」の理論ではなく、どちらかというと評論的な「読み方」の理論です。
視線誘導の提唱者である夏目房之介先生自身も、以下のようにおっしゃっています。
表現論というのは技術論じゃないんですよ。仕組みを解くための理論であってね。全ての理論のベースであるとは思うのですが。人間がものをどう読むのか、どう描くのかということのベースになるものですから。それを応用してそこから技術論を生み出すことは可能なんですよ。ただ僕自身は技術論をやってはいません。
ですから、視線誘導は、マンガの描き方の理論としてはまだ確立されていないわけです。
視線誘導のハウツー本はいくつかありますが、あくまでもそれは「その人のやり方」として参考にすることしかできません。
夏目房之介先生自身も、前述の記事の続きの部分で以下のようにおっしゃっています。
それ(個々のマンガ家の視線誘導などの表現論)を文法として考えちゃうとみんな同じように描けばいいんじゃないってなりやすいんですけど、そうじゃないんですよ。その人その人の修辞法と考えるべきなんです。その人の文体。だらだらした文体もあれば、きちっとした文体もある、やたらめったら文節を短くする人もいる。というのと同じなんですよ。
出典:マンガナビ【「どうすれば、読みやすいマンガが作れるのだろうか?」『マンガ表現論』『視線誘導論』の夏目房之介】()内は加筆
視線誘導に関して、「こうしなきゃダメ」というのは無い。でも「こうしたら面白い」という方法は無限にある!というわけです。
読者の視線の流れを緻密に計算しても、作者の意図通りの流れで読むかどうかなんて曖昧な話ですから、描き方の技術論として確立しにくい分野なんでしょうね。
視線誘導が上手くなる方法
上記のように、視線誘導の技術論は確立されていません。
ですから、どうやったら上手くなるかというと、自分なりの方法を確立するしかないということです。
なにしろ視線誘導のハウツー本が少ないのが現状です。漫画家の先生方も、体で覚えちゃっている部分が多くて、理論を説明できないことが多いでしょう。
噂によると「HUNTER×HUNTER」の富樫先生はネームの理論を体系化した秘密のノートを書かれたらしいですが、富樫先生レベルの人じゃないとなかなか理論化できないことだと思います。
お手本になる漫画の分析・模写、そして沢山マンガを描く!などの地道な方法でしか、上達できない分野なんでしょうね。
まとめ
視線誘導について、この記事で考えた点は以下の通りです。
- 視線誘導とは読者の視線の動きを設計すること
- 視線誘導は、マンガの読みやすさと演出に役立つ
- 視線を誘導する要素は、キャラクター・吹き出し・その他の文字
- 視線を誘導する要素を「右から左」「上から下」に配置することが基本