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マンガの絵が上手いって何でしょうか?まとめ記事で「絵が上手いマンガ家ランキング」なんてありますが、結局リアルな絵を描いているマンガ家だけが選ばれています…それでいいのでしょうか?
この記事では、マンガの絵が上手い下手の話と言えばこの方…「いしかわじゅん」先生の本を参考に、マンガの絵が上手いとは何か?という話をまとめました。絵の練習の参考にもなると思います。
マンガにおける「絵が上手い」とは?
美術・アートの世界では「絵が上手い」というとリアルな絵だけじゃないということは一般常識だと思います。
例えばピカソの絵など、抽象的な絵でも「上手い」といわれる世界です。同じように、マンガの場合も「絵が上手い」とはリアルな絵だけではありません。
「絵が上手い」にも色々ある
一言で、「絵がうまいとは〇〇ということだ!」と説明できればいいのですが、なかなか難しいと思います。
「絵が上手い」だけだと漠然としています。例えば、「野球が上手い」では漠然としていて、打撃が上手いのか、投げるのが上手いのかよくわからないのと同じです。
絵は色々な要素が合わさって出来上がっていますから、「絵が上手い」だけじゃなく、絵の「何が」上手いのかを考える必要があります。
そこで、この記事では、マンガの絵が上手いパターンを3種類にわけてみました。
上手い絵その1:リアルな絵
リアルな絵が描ける人は、誰の目から見ても「絵が上手い」といえますね。
とはいえ、マンガの場合、リアルな絵を描けるといっても、ほとんどの場合「人間を」リアルに描けることがメインです。
何も見ずにリアルに描けること
マンガの場合、特に「何も見ないで」人間をリアルに描ける人のことを、絵が上手いといわれることが多いです。
マンガの場合、いちいちモデルにポーズをとってもらって描くわけにはいかないので、かなりの部分、記憶やイメージで描く必要があります。
つまり、リアルな絵を、何も見ないで描けるということは、形をしっかりと「記憶している」とか「イメージできる」ということです。もちろんそのためには、練習段階で本物をよく観察することが必要でしょう。
精巧なデッサン人形や、3Dグラフィックのデッサン人形アプリもあるので、覚えていなくても見て描けば何とかなる時代ですが、少なくとも一昔前までは、リアルな形を覚えている・イメージできることが必要でした。
ですから、リアルな絵が上手くなる練習とは結局、形を記憶することと、記憶した情報を元に何も見ずに描く練習ということですね。
デッサンで身につくとは限らない
何も見ないでリアルに描く能力は、モデルを見ながら描く「デッサン」で身につくとは限りません。
デッサンが基礎となるとはいえ、デッサンだけで、リアルなマンガの絵を描けるようになるとは限りません。デッサンをやりまくった人でも、マンガの絵は上手く描けないことがよくあります。その点について詳しくは、以下の記事にまとめています。
マンガの描き方|デッサンは本当に必須か?画力アップに必要な能力とは
上手い絵その2:バランスの上手い絵
リアルな絵ではなくても、上手い!と言われる人の代表格は鳥山明先生かもしれません。
鳥山明先生の絵は、みんなが「上手い」と思う絵ですが、リアルな絵ではありません。それは、全体的に形が美しくデザインされているような印象です。
こういうタイプを「バランスが上手い絵」と定義してみました。いしかわじゅん先生の以下の解説を参考にしています。
鳥山の絵は…(中略)…バランスが非常にいい。どのキャラクターをどの角度から見ても、きちんとバランスがとれている。
出典:いしかわじゅん著「漫画の時間」より
どうすればバランスよく描けるか
どうすればバランスのいい絵を描けるのかは、方法論が確立されておらず、おそらく「センス」の一言しかないでしょう。
リアルに描けばバランスがよくなるとは限りません。バランスの上手い絵を描く人は、空想のメカとか生物、あるいはリアルではないデザインのキャラクターなど、実在しないものをバランスよく描けます。ですから、デッサンなどの練習では身につかないでしょう。
マンガというより、デザインの世界に近いですね。キャラクターの形について、いかにバランスのいい、美しい形をデザインできるかということです。
デザイン関連の方法論を学ぶといいのかもしれません。
上手い絵その3:表現力が高い絵
リアルじゃないし、バランスもいいわけじゃない絵は、下手だと認識されることが多いですが、そうとは限りません。
一見すると下手に見える絵でも、意図的に崩して描いたり、あえて線を省略したりして、表現したいことを的確に表現している場合があります。それを「表現力が高い絵」と定義してみました。
リアルじゃないけど的確な絵
「表現力が高い絵」は、いわゆる「ヘタウマ」とは違います。ヘタウマな絵とは、ヘタだけどなんかいい感じの絵です。
でも「表現力が高い絵」は、的確に線を引いて、上手く表現していますから、技術力が高い「上手い絵」です。
この点についても、いしかわじゅん先生の解説が参考になると思います。南伸坊先生の絵についてです。まず、南伸坊先生の絵は、あまり上手いとは思われていないという点を以下のように述べています。
南さんは…(中略)…実は本当に絵がうまい。
(中略)
ところが、南さんの絵のうまさもまた、あまりよく理解されてはいないようなのだ。南さんの絵を<可愛い絵>、あるいは<便利な絵>と認識してはいても<うまい>とは思っていない編集者がいっぱいいるようなのだ。
出典:いしかわじゅん著「漫画の時間」より
南伸坊先生は現在ではイラストレーターとして知られ、絵がうまいことは周知の事実です。どんな絵か?という点については、南先生の画集が出ていたので、リンクを貼っておきます。
南伸坊先生の絵が、どのように上手いのかという点について、いしかわじゅん先生は以下のように解説しています。
南さんの卓抜な絵の力が、ぼくらに南さんが感じたものを伝えてくれるのだ。あの曖昧にして確かに上品な絵が、その楽しさや哀しさ、そういう些細な感情を、細大洩らさず伝えてくれるのだ。
出典:いしかわじゅん著「漫画の時間」より
「感じたものを伝えてくれる」と述べているように、伝えるべきことを的確に表現している絵だということですね。まさしく「表現力が高い絵」です。
ヘタな絵とどう違うか
ヘタだけどいい感じの絵、つまり「ヘタウマな絵」と、「表現力が高い絵」とは何が違うのかというと、やはり「わざと」か「わざとじゃない」かだと思います。
ヘタウマな絵は、絵がヘタで上手く描けないことが、逆にいい感じの雰囲気を生んでいます。つまり「わざとじゃない」のにいい感じになっている。
逆に「表現力が高い絵」は、「わざと」崩したり、ゆがめたり、省略したりした結果、いい感じの雰囲気を表現しています。
わざとか、わざとじゃないかを見分けるには、専門的な分析力が必要です。おそらく絵が描ける人間にしか分からないでしょう。それでマンガの編集者ですら、見分けるのが難しいというわけですね。
どうすれば表現力が高くなるか
どうすれば表現力が高くなるのかは、3つの中で一番難しいように思います。
とても感覚的な、芸術の世界ですから、理屈ではどうにもならない部分が多いでしょう。
自分の表現したいことを的確に描くためには少なくとも、自分のイメージ通りの線を、イメージ通りの位置に引くという基礎的な画力は、大前提として必要です。
でもそれだけで表現力が高くなるわけではありません。あとは才能なのかもしれませんね。
番外編:「マンガが上手い」というパターンもある
マンガの「絵が上手い」というわけではなく、「マンガが上手い」という場合もあります。
つまり、コマ割りとか、セリフ・内容が上手いだけで、絵は下手という場合です。マンガは内容が重要な世界ですから、こういう人でも十分プロになれるわけですね。
この例に挙げるのも大変恐れ多いのですが、明らかに「ドラゴン桜」の時の三田紀房先生はこのパターンだと思います。明らかに等身や頭の形が不自然で、わざとそうしているわけでもなさそうです。
でもマンガとしての内容がすばらしいので「マンガが上手い」というわけですね。
まとめ
マンガの絵が上手いとは何でしょうか?その答えは、一言では説明できませんでしたが、マンガの絵が上手いにも色々あるということで、3つのパターンを紹介しました。以下のとおりです。
- リアルな絵:実物通りにリアルに描かれた絵。形を覚えている必要がある。
- バランスのいい絵:バランスよくデザインされた絵。デザインセンスが必要
- 表現力の高い絵:作者の意図を的確に表現した絵。おそらく才能でなんとかするしかない。