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マンガやイラストを描く人たちの間では「デッサンが狂っている」という言葉がよく使われます。この場合の「デッサン」という言葉は、美術業界で使われる一般的な意味とは少し異なります。「デッサンが狂っている」とはどういう意味なのかをまとめました。
本来のデッサンとは
マンガ・イラスト業界の「デッサン」について説明するには、まず一般的な「デッサン」の意味を押さえておく必要があります。デッサンは美術用語なので、美術の世界でどのように使われているか?ということです。
広い意味:線などで描かれ、彩色しない絵
ブリタニカ国際百科事典の定義によると、デッサンとは広い意味では以下のとおりです。
(デッサンは)素描とも訳される。一般に線的特質が顕著で,ほとんど彩色を施さない絵画表現をさす。
引用元:『ブリタニカ国際大百科事典』小項目事典 ―()内は加筆
つまり、鉛筆などで線を引いて描かれただけの絵全般を「デッサン」というわけです。デッサンだけで完成した絵となる場合もあれば、絵の「下描き」として描く場合もあります。
リアルなのか、リアルじゃないのかも関係なく、主に線を使って色を塗らない絵は「デッサン」というわけです。つまり、「線で絵を描くこと」と言ってもいいでしょう。
狭い意味:写実的な絵の練習
日本においては、下描き・下絵のことをデッサンということはほとんどありません。主に写実的な絵の練習をすることを「デッサン」と言います。
この点は、ブリタニカ国際大百科事典の先ほどの定義の続きの部分で、以下のように解説されています。
解剖学などの絵画表現の探求,技術的習熟を目的としたもの,および完成作の細部,全体の構図を明確にするための習作。
引用元:『ブリタニカ国際大百科事典』小項目事典
つまり、人間のモデルなどを見ながら「解剖学などの絵画表現の探求」をするために絵を描いて練習するのも「デッサン」です。
これは結局、前述の「線で絵を描くこと」という広い意味に含まれていますが、日本においては、デッサンは主に「写実的な絵の練習」という狭い意味で使われることが多いわけです。
マンガ業界でのデッサンとは
マンガ業界では、上記の説明とは少し違う意味で、「デッサン」という言葉が使われています。竹熊健太郎氏による解説によると、以下のとおりです。
有能なマンガ家は、対象物をいくつかの線でパターンとして抽象化し、美しいバランスに見えるよう紙面に定着させる。この線相互のバランスやコンポジションの美しさこそが、つまりはマンガ家のいう「デッサン」の正体なのだ。これは絵画というより、むしろ書道のそれに近い。
引用元:竹熊健太郎『マンガにデッサンは必要か?』|マンガの読み方(別冊宝島EX)より
マンガにおける「デッサン」とは線のバランスや、コンポジション(組み立て・構成)の美しさのことだと解説しています。
この説明から、「デッサンが狂っている」とは何なのかが分かると思います。以下にまとめました。
「デッサンが狂っている」とは?
「デッサン」という言葉は、マンガの場合は「狂っている」という言葉とセットでよく使われます。
前述のとおり、マンガ業界の「デッサン」は「絵のバランス」という意味なので、それが狂っているということは以下のような意味になります。
その1:左右対象に描けていない状態
デッサンが狂っていないかどうか、紙に絵を描いた後、紙を裏返して、絵を透かして見るという方法があります。主にマンガやイラストの世界で使われている技法です。つまり、
絵を左右反転させて変に見えたら「デッサンが狂っている」。左右反転させても変じゃなければ「デッサンが狂っていない」
ということです。絵を左右反転させると変に見える場合があるのはなぜなのでしょうか。これは、絵を左右対称に描けていないからです。顔のパーツが少し右に寄っているとか、右目が少し大きいとか、左右のバランスがおかしいと、反転させたときに変に見えます。
キャラクターが斜めを見ている絵でも、パースなどがしっかりしていて立体的な意味で左右対称に描かれていれば、反転させても変にはなりません。
つまり、マンガやイラストにおける「デッサンが狂っている」とは、「左右のバランスが取れていない」という意味で使われる場合があるわけです。
その2:リアルではない状態
「リアルな絵ではない」という意味でデッサンが狂っていると言われることもあります。「絵のバランス」という意味だけでなく、一般的な意味に近い使われ方をする場合があるわけです。
マンガ・イラストでは、「リアルな絵が描ける」という意味で「デッサン力がある」と言われることがあります。
現代のマンガでは、キャラクターの「体」だけはリアルに描かれることが多いので、主に体の骨格や筋肉の描き方、ボディラインがリアルに描けるかどうかで、デッサン力の有無を判断されることがあります。
それには、古いマンガの理論として、リアルな絵(デッサン)を練習し、リアルな形を変形(デフォルメ)することでマンガの絵が描けるようになるという考え方があったことも関係しています。
ちなみに、今では、マンガの絵が上手くなるために、リアルな絵を描く練習は必須ではないという考え方が主流です。その点については、以下の記事を参照してください。
マンガの描き方|デッサンは本当に必須か?画力アップに必要な能力とは
「デッサンが狂っている」から脱するには?
では、「デッサンが狂っている」とか、「もっとデッサンをやれ」と編集者にいわれたとかいう場合に、どうしたらいいのでしょうか。つまり、「デッサンが狂っている」からの脱出方法をまとめました。
左右対象に描くことを意識する
前述のとおり、マンガの場合は主に「紙に描いた絵を裏から透かして見たら変に見える」という意味で「デッサンが狂っている」と言われます。それは絵を左右対称に描けていないことが原因です。
ですからまずはこれをやってみて、自分の絵のバランスの崩れに気づくことがスタートです。デジタルの場合は、絵を「左右反転」させるだけです。
デジタルならではのテクニックとして、絵の右半分を左半分にコピペして反転させるというのも良い方法だと思います。レイヤーの透明度を調節すれば、絵のずれが一目瞭然になります。(キャラが正面を向いた絵に限る)
3Dグラフィックのように描く
絵のバランスがすごくいいマンガ家、絵師として、鳥山明、宮崎駿、安彦良和の3人を例に考えてみると、共通点が見えてきます。
それは、3人とも立体的に絵が描けるということです。頭の中に、キャラクターが立体的にイメージできている感じで、まるで3Dグラフィックのように自由に角度を変えて描ける感じです。
宮崎駿や安彦良和はアニメーターですから、キャラクターやメカをあらゆる角度から立体的に描くのがものすごく上手いですよね。動画を描くためには不可欠な能力でしょう。
鳥山明はマンガ家ですが、天才なので立体的に描けちゃうのでしょう。
ですから、立体的に絵を描く練習をすること、あらゆる角度で絵を描く練習をすることが重要である可能性が高いといえます。アニメを描いてみてもいいかもしれません。
リアルな人体を描く練習をする
前述のとおり、体がリアルに描けていないと、デッサンが下手だと言われることがあります。
ですから、人間の体をリアルに描く練習をすることでも、「デッサンが狂っている」から脱出できます。マンガの場合、顔をリアルに描くことはほとんどありませんので、リアルな体を描くこと重点的に練習する必要があります。
実際の人間のモデルをお願いして描くのもいいですが、デッサン人形や3Dデッサンアプリなら手軽に練習できます。以下の記事を参照してください。
3Dデッサン人形アプリまとめ|無料・有料の両方まとめました!
おすすめデッサン人形8選!マンガ・イラスト用に最適なのはコレ
「デッサンが狂っている」は本当にダメなのか?
マンガ業界の通説として「マンガにデッサンは不要」という話があることは前述のとおりですが、それは「一般的な意味」でのデッサンが不要というだけです。
マンガ的な意味での「デッサン」は重要です。とはいえ、絶対必要かというと、そうでもありません。「あったらいいけど無くてもいい」というような存在でしょう。
バランスは大切、リアルさは無くてもOK
「バランスが狂っている」という意味での「デッサンが狂っている」という状態は、できるだけ避けた方がいいでしょう。とはいえ絶対避けるべきというわけではありません。多少バランスが狂っていても、いい絵になることがあるからです。
「リアルに描けてない」という意味で「デッサンが狂っている」というのも、ダメとは限りません。昔のマンガでは、リアルな人物を描くことはほとんどありませんでしたし、現代でも、全てのマンガがリアルに描かれているわけではありません。
わざとならOK
本当はバランスよく描けるし、リアルにも描けるけど「わざと」崩して描いて表現する場合があります。これは当たり前ですが、ダメなわけがありません。
「わざと」か「わざとじゃない」かは、絵のことがよくわかる人じゃないと見分けられないでしょう。いしかわじゅん先生によると、マンガ雑誌の編集者でも見分けられない場合が多いようです。その点は以下の記事にまとめました。
マンガの絵が上手いとは?リアルな絵だけが上手いわけじゃない!
ですから、「デッサンが狂っている」つまりバランスが狂っているとしてもダメとは限らないわけです。
まとめ
マンガ・イラスト業界でよくいわれる「デッサンが狂っている」の意味は以下のとおりです。
絵のバランスが崩れている、もしくはリアルではないこと。