「ワンピースの伏線がすごい!」といってやけに騒がれているようですが、伏線ってそもそも「何のために張るのか?」ということが曖昧になっている気がします。
ここでは、伏線は何のために張るのか?張ることでストーリーはどのように面白くなるのかをまとめたいと思います。
伏線の定義の話になると、意見が分かれるところなので、置いときまして…
このサイトの方針である「実用性」メインに考えたいと思います。つまり、伏線を張って、何かいいことがあるのか?面白くなるのか?ということです。
伏線を張る意味、効果については諸説色々ありますが、私は次の2つに大別されると思います。
- 回収重視型
- 伏線重視型
順番に見ていきましょう。
伏線の意味その1:回収重視型
実例:荒野の用心棒
ちょっと古い作品ですが、有名なので「荒野の用心棒」を例に、考えてみましょう。
有名なクライマックスの決闘シーンで、この「回収重視型」の伏線が効果を発揮しています。ちなみに「バック・トゥー・ザ・フューチャー3」でオマージュされているシーンですね。
次のようなシーンです。
主人公がライバルに撃たれる!
あれ?撃たれたのに倒れない!?
さらに何発も撃たれる!…それでも倒れない?!どういうこと?!
・・・ポンチョの下に鉄板を仕込んでいたからでしたー!という以下のシーンです。

「荒野の用心棒」より―ポンチョの下に鉄板!
回収するときに盛り上げるための伏線
でも…このシーンだけ切り取ると、なんとなく説得力がないと思われないでしょうか。
「ボディ以外を狙われたらどうするんだよ?!」「鉄板どっから持ってきた?!」・・・などの突っ込みを入れたくなるところです。
でも、映画を最初から通して観ると、そうか!なるほど!かっこいい!・・・となる。
それは、効果的な伏線が張られているからです。
物語の中盤で、ライバル役が、鎧の胸にハートマークを打ち抜くシーンがあります。
このシーンによって、このライバル役は必ず敵の心臓を狙う奴だという情報が加えられます。しかも腕がいいから外さないということもわかります。
この伏線によって、クライマックスで「ボディ以外を狙われたらどうすんの?」とツッコまれる余地をなくして、説得力をアップさせています。
しかも「鎧=鉄板」ということで、ラストの鉄板のイメージをさりげなく置いています。

「荒野の用心棒」より―鎧にハートマークを打ち抜くシーン
他の伏線として、決闘シーンの前に、主人公が鉄を使って何やら作っているシーンがあります。
これらの伏線によって、「鉄板とかどっから持ってきた?」「超展開!」とか言われないようになっています。
このように、クライマックスの仕掛けに説得力を加えて、いっそう面白くするために伏線が張られているのです。
この例では説得力アップが目的ですが、他にも、感動アップ。意外性アップなど、色々な目的で張られます。
いずれにせよ、回収するときのための伏線だから「回収重視型」と呼ぶことにしました。
リサ・クロン著「脳が読みたくなるストーリーの書き方」にも、以下のように書かれています。
伏線の最も基本的な形とは、伏線回収よりずっと前に読者に与えておくべき情報の断片であり、それによって読者は、伏線回収に現実味があるかどうかを判断する。
―リサ・クロン著「脳が読みたくなるストーリーの書き方」(府川由美恵訳)より
伏線の意味その2:伏線重視型
実例:けいおん!番外編#13「冬の日」
「荒野の用心棒」の次にこれが出てくると何だか変ですが、「けいおん!」の番外編(13話)を例に、考えましょう。
この話は、物語の前半で、伏線をたくさん張っているのが特徴です。
まず、なんとなくりっちゃんの様子がおかしいという伏線。
あずにゃんも「今度の日曜日は家から出られそうにない」という伏線が張られています。
むぎちゃんの伏線は、むぎちゃんが「今日はここで」と言って去ろうとする→ゆい「何か用事?」→むぎ「うん・・・ちょっと・・・」というやり取り。
このように、「何か深いワケがあるのか?」「なんだろう?」と思わせる伏線が張られています。
伏線そのものに、盛り上げる効果がある
これらの伏線には、特にすごい回収があるわけでもありません。
結局むぎちゃんはバイトを始めただけだし、あずにゃんも友達の猫を預かるだけ。りっちゃんはラブレターをもらって悩んでいたけど、結局ラブレターじゃなかったというオチです。
このタイプの伏線では、どう回収するかは重要じゃないのです。
とにかく「深いワケがあるのかも」「事件が起きるかも!」「なんだろう?!」と、続きが気になるようにさせるために張るわけです。
このように、伏線そのものが、盛り上げる効果を発揮します。回収することは重要ではなく、伏線そのものが重要なので「伏線重視型」と呼ぶことにします。
リサ・クロン著「脳が読みたくなるストーリーの書き方」にも、以下のように書かれています。
伏線とは、事実、行動、人、出来事など、将来の動きを暗示するものだ。
―リサ・クロン著「脳が読みたくなるストーリーの書き方」(府川由美恵訳)より
目的意識をもって伏線を張ろう!
伏線を何のために張るのか?2つの理由を考えましたが、伏線を張る理由がわかると、伏線を自由に使いこなすことができるようになります。
例えば、「ラストシーンの説得力がないなあ」と思ったら、「回収重視型」の伏線を使えばいいわけです。
「もっと続きが気になるような演出をしたい」と思ったら、「伏線重視型」の伏線を使えばいい。
伏線を張ることで、どんな効果を狙うのか?回収するときの感動をアップさせるためなのか?続きが気になるようにするためなのか?目的意識を持って伏線を使いこなしましょう!
この記事の参考文献
今回引用した、リサ・クロン氏の本はおすすめです。ハリウッドのストーリー構成理論に基づいていて、土台がしっかりしています
日本のストーリーの作り方は、人によってまちまちな感じで体系化されていないように思いますが、ハリウッドの国アメリカは、しっかり体系化されています。
ストーリーの作り方を学ぶなら、アメリカの本を読むのが基本だと思います。