演劇とか、脚本家の世界では常識的な、セリフのタブー「説明台詞」ダメなセリフの代名詞みたいなものですね。この記事では、「説明台詞」って何?という話と、どうすればそれを避けられるのか?ということをまとめています。
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説明台詞とは
説明台詞を知らない人は、「キャラクターが何かを説明する台詞」のことだと思うかもしれません。もちろん違いますが、説明台詞を定義するなら、
「作者が何かを説明するために、キャラクターに言わせている不自然な台詞」
と言えるかもしれません。平田オリザ著「演劇入門」に、説明台詞の例が挙げられています。以下のとおりです。
舞台設定を美術館だとしよう。主人公が入ってきて、いきなり、
「あぁ、美術館はいいなぁ」
と独りごとを言う。これがいちばんダメな台詞の例である。
ー平田オリザ「演劇入門」(講談社)より
「冒頭で舞台設定を説明しなきゃ」という作者の意図が見え見えの不自然な台詞ですね。
他にも、例えば「心理描写しなきゃ」「キャラを立てなきゃ」「設定を説明しなきゃ」ということで、不自然な台詞を言わせてしまうことって、ありがちだと思います。
「説明台詞の見分け方」、つまり「何をもって不自然とするか」というのは難しい問題ですね。「この状況で、このキャラは、こんなことを言うだろうか?」「ストーリーの流れを説明したくて、言わせている台詞なのでは?」など…
色々と自問してみて、不自然かどうか検証していくしかないような気がします。説明台詞は避けるべきですが、必要な情報は伝えなければいけません。どうすればいいのでしょうか。
説明台詞を避けるための4つの方法
キャラクターの言いたいことを言わせる
台詞は基本的に「キャラクターが言いたいことを言わせる!」という意識で書くべきでしょう。
「ここで、こういう情報を言わせなくちゃ」とか、そういう作者の意図を、なるべく考えずに書かなくてはいけません。その点が、「荒木飛呂彦の漫画術」で、以下のように説明されています。
セリフを書くときの基本的な態度は、自然体である、ということがポイントです。キャラクターを動かしていくときは、このキャラクターならこういう状況でどんなセリフが出てくれば自然か、ということだけで、セリフをどう書こうか、ということは考えずにどんどん描いていき、後で読み返してみて、わかりやすいかどうかチェックするのです。
―荒木飛呂彦著「荒木飛呂彦の漫画術」(集英社)より
多少、話題の誘導などは必要かもしれませんが、とにかくキャラクターの気持ちになって、自然と出てくるセリフを書く。もちろんそのためには、キャラクターがしっかりできている必要がありますね。
「情報を知らない人」を投入する
例えば、ある事件の内容がわかるような台詞を書きたいとしましょう。
その事件についてよく知っている者同士の会話だと、かなり無理があると思います。お互い知っているはずの情報を、わざわざ口に出すのは不自然だからです。
こういう場合は、対話する相手を変えてみるといいかもしれません。対話する相手が、その事件について知らなくて、説明する理由があるのであれば、事件について説明しても不自然ではないでしょう。
このような手法について、前述の「演劇入門」で、以下のように説明されています。
家族内の会話だけでは、お父さんの職業さえ観客に伝わらない。
演劇においては、他者=観客に、物語の進行をスムーズに伝えるためには、絶対的他者である観客に近い存在、すなわち外部の人間を登場させ、そこに「対話」を出現させなくてはならないのだ。
(中略)
一般に、このような他者の存在をうまく挿入できるかどうかが、すぐれた戯曲、優れたシナリオの最低条件となる。
ー平田オリザ「演劇入門」(講談社)より
この手法は、ファンタジーでもよく使われますね。
現実世界にいた主人公が、異世界に行く。主人公は、その世界のことを何も知らないから、異世界の解説キャラが説明してくれる…みたいなことです。
「何も知らない」人を投入することで、説明が可能になるわけです。つまり「言わせたい情報について知らない人」に対してなら、説明しても不自然ではないということですね。
他の方法で説明する
台詞を使わなくても、必要な情報を説明することができます。
小説であれば台詞以外の文章、いわゆる「地の文」で表現できますね。マンガでも「地の文」が使えます。→詳しくは別の記事「マンガの心理描写に、小説の「地の文」の技術が大切だという話」も参照
マンガの場合は画で説明することもできます。映画やアニメであれば、音楽や効果音でも説明できますね。無理に台詞で説明しなくても、方法は色々あるってことですね。
説明しない
自分の作品を校正していて、説明台詞を見つけちゃったとき…
書き直すのではなく、その台詞を消しちゃうってのも面白いと思います。つまり、説明しないことにするわけです。「これって説明しなくてもわかるじゃん」ということに気づいた時って、結構気持ちがいいものです。
まとめ
説明台詞とは、「作者が何かを説明したくて、キャラクターに言わせている不自然な台詞」ということです。そして説明台詞を避ける4つの方法とは以下のとおりです。
- キャラクターの言いたいことを言わせる:作者の言いたいことについては考えないようにする。
- 情報を知らない人を投入する:言わせたい情報について知らない人に話すのなら、説明しても不自然ではない。
- 台詞以外で説明する:地の文、画、音楽、効果音などで説明する。
- 説明しない:説明しなくていい情報は説明しない。